死んでいる人間を見た
彼は目を閉じ
口を噤み
青い顔をし
冷たい手を持ち
白い着物を着て
檜の箱に入り
ただ一人静寂を守って
死んでいた
何が違う
彼と私と何がそんなに違うのか
私は生きている
私は瞬きをし
言葉を紡ぎ
朱色の頬をし
温かい手を持ち
毎日制服に身を包み
つまらない社会に身を埋め
周囲の騒音に耳を塞ぎ
生きている
ただそれだけ
それだけしか違わない
生と死
ただそれだけ
それだけしか違わない
ときどき思う
私は本当に生きているのか
本当は死人ではないのか
そして私は確認する
手首にカッターの刃を押し当て
引いてみる
一筋の線が手首に出来
その線が赤線へと変わる
溢れ出す朱い液体
周囲の物が朱へと染まる
溢れ出す温かい液体
気付くと頬にも温かいものが伝う
溢れ出す澄んだ液体
悲しくて溢れ出す涙
私は生きている
生による騒音
生による不安
生による苦痛
死による静寂
死による安静
死による無痛
嬉しくて溢れ出す涙
私は生きている
死による零度
死による虚無
死による哀
生による温度
生による歓喜
生による愛
私は生きている
騒音
不安
苦痛
を抱えながら
温度
喜び
愛
に包まれて
それでも
死は常に生の背後に控えている
静寂
安静
無痛
で誘惑しながら
零度
虚しさ
哀
を隠して・・・
私と彼と何がそんなに違うのか
生と死
ただそれだけ
生と死
ただそれだけの
明らかな違い
生と死
交わる事のない
相反するもの
それでいて常に隣り合っている
生と死
私と彼
ただそれだけの 明らかな違い
交わる事のない 相反するもの
それでいて
常に隣り合っている
目の前に広がるは朱き世界
世界が歪むは涙のせいか
それとも彼が 私を呼ぶのか・・・
朱き世界
繋がる先は
無の世界
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